肺がん患者も健常者も、新型コロナの感染リスクは同じ。
肺がん患者だからといって、必要以上に怖れる必要はないのです。
新型コロナウイルス感染症が発生して、まもなく2年が過ぎようとしていますが、淺村先生は今回のこのパンデミックを、どのようにご覧になりましたか。
僕が勤務する慶応大学病院では、実際のところ、新型コロナの直接的な影響はニューヨークなどで見られた程大きくはありませんでした。ただし、患者さんの方で受診を控えられた方が多くいらして、結果的には呼吸器外科でも手術の来院者が減りましたね。手術の実績としては、12%程度の減少でした。
新型コロナの感染者が急激に増えた当時、マスコミは連日のように医療崩壊を叫んでいましたが、僕が他の病院を見た限りではそんなことはなかった。この問題は、日本における病床数や医療スタッフの配分の不効率性にかなりの原因があるのですよ。日本はG7諸国と比較して、病院の数は多い。ところが、大病院の勤務医は恒常的に不足しています。しかも、残業時間が長いなどの労働環境の悪さに加えて、開業医と比較した場合に収入が低いなどの事情も関係している。この辺の根本的な問題を解決しなければ、状況は改善できないでしょう。
新型コロナウイルスについて僕が思うのは、「そもそも、ウイルスとは何か」をよく知っておく必要があるということです。ウイルスとは、生きている宿主の細胞内で繁殖する小さな病原体です。細菌との区別がつかない人がいるかもしれませんが、ウイルス自体は細菌のように自分自身を再生する能力はありません。人間の細胞に寄生して、そ
の増殖機能を利用して増えていくわけです。
若い頃、僕たちはウイルス学の講義の時に「ウイルス感染は種を超えない」と教わりました。
例えば、鳥インフルエンザは鳥にしか感染しない。同じ理由で、豚コレラが流行っても人間には感染しない。それがウイルス学の基本であると覚えたのです。
ところが、近年になってウイルスが種を超えることが多くなった。そして、非常に重篤な疾患を起こし始めたわけです。例えば、皆さんもよくご存知だと思います、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)。これは、ヒトに感染すると免疫力を低下させてしまうウイルスです。HIVが体内に侵入すると免疫細胞が徐々に破壊されて、普段は感染しない病原体に感染してさまざまな病気を発症しやすくなります。これが、エイズ(AIDS、後天性免疫不全症候群)です。
1983年、慶應義塾大学医学部卒業。92年、国立がんセンター中央病院呼吸器外科医員。97年、Mayo Clinic、Memorial Sloan-Kettering Cancer Center留学。99年、国立がんセンター中央病院呼吸器外科 医長。2009年、独立行政法人国立がん研究センター中央病院呼吸器外科科長。10年、同副院長(診療担当)。14年、慶應義塾大学医学部外科学(呼吸器)教授/診療部長となり、現在に至る。国立がん研究センター中央病院呼吸器外科在席時は、年間約700件の肺がん手術をこなし、症例数は国内トップ、世界有数の成績を誇る。診断の的確さ、手術の安全性・根治性・低侵襲性など、技術力の高さに定評がある。世界肺癌学会の理事も務め、肺がん治療におけるオピニオンリーダー的存在。日本外科学会外科専門医・指導医、呼吸器外科専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、医学博士、ソウル国立大学胸部心臓血管外科客員教授、杏林大学医学部客員教授 。